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クリスマスの靴
スティーブ・ハーツ

クリスマス・シーズン、それは間違いなく、私が一年で一番好きな時期であり、忘れがたい思い出も沢山あります。家族そろって何年間も宣教の仕事をしていたフィリピンを離れ、アメリカに帰国したのは、12月の雪の日のことでした。私は6歳でしたが、祖父母に会ったのも、雪を体験したのも、その時が初めてでした。

15歳のクリスマス・シーズンには、チャリティーコンサートを開くためにワシントンDCからメキシコに来ていたバンドのツアーに同行して、パーカッションをさせてもらったこともあります。それは最高の経験でした。

けれども、私にとって最も思い出深いクリスマス・シーズンは、2002年と2003年のことです。その2つのクリスマスは、一曲のシンプルな歌によって結び合わされています。それは、私の人生に大きな影響を与えた歌でした。

2002年のクリスマスは、とりわけ喜びに満ちていました。母はその数ヶ月前に癌が完治したと告げられ、久しくなかったほど元気にしていました。12月のある日、母は翌日の集まりのためにお菓子を焼いていました。南カリフォルニアの私たちのアパート中に、そのおいしそうな匂いが漂っていたのを覚えています。

ラジオは、24時間一日中クリスマスのヒット曲を流す局に合わせられていました。曲目の大半は、「ジングルベル・ロック」や「サンタが街にやってくる」などの軽快なキャロルでしたが、ある歌が流れ始めると、雰囲気ががらっと変わったので、私は関心をそそられ、していたことをやめて耳を傾けました。後に、それがニューソングというグループの「ザ・クリスマス・シューズ」(クリスマスの靴)という歌だったことがわかりました。

それは、クリスマス・イブに、高級デパートでクリスマス直前の買い物を済ませようとレジに並んでいた男性についての歌でした。彼の前には、その店には全くそぐわない身なりの男の子が、一足の靴を抱えて並んでいます。順番が来て、その子は、病気で死にかけているお母さんのためにその靴を買いたいのだ、と言いました。もしその夜、お母さんがイエス様に会うことになるとしたら、きれいでいてほしいからと。

その子は持っていたありったけの小銭をカウンターの上に出しましたが、店員はそれでは足りないと、首を横に振りました。男の子は振り向いて、懇願するように男性を見つめます。男性は、靴代の足りない分を出してやりました。そして、男の子が礼を言って帰って行った時の表情を、いつまでも忘れることができないという歌です。

その歌を聴いて、私の頬には涙が伝いました。私には、まだ母親がそばにいます。何と幸運なことでしょう。そして、もし私が、まもなく母を亡くすその少年の立場だったら、どんなに悲しいことだろうかと想像しました。残りのクリスマス・シーズン中、その歌はずっと私の心に流れ続け、やがて新年の訪れと共に消え去っていきました。

2003年になると、私の母の癌は再発し、容態は再び悪化しました。その年のクリスマスには、母は介護施設にいました。死を迎えるまで、そこでゆっくりと過ごすためにです。そんなある日、私は何かの用事で兄と一緒に出かけ、車の中でラジオを聞いていました。すると突然、あの「ザ・クリスマス・シューズ」の歌が流れ始めたのです。今回それは、何と現実味を帯びていたことでしょう。

歌に心動かされて、私たちは早速、母のためにきれいな靴を買いました。とてもよく似合って、母は大喜びでした。そのほんの数週間後、母は(少なくとも母の体は)私たちのもとを去りました。

この美しい歌は今、お祝いやその準備、親族の訪問などのクリスマス・シーズンの慌ただしさを超えて、その向こうにある大切なものに目を向けるのを助けてくれています。目が回るほど忙しく、頭がおかしくなりそうで、いつの間にかイライラしてしまう時には、母の声が私にこうささやくのが聞こえるのです。「あのクリスマスの靴の歌を思い出して」と。

このように思い起こさせてもらうと、自分にある沢山の祝福を数えることを思い出し、ストレスやいらだちは消え去ります。元気に生きている家族や愛する人たちのことを考えるし、自分自身の命や健康についても、感謝を捧げます。

また、歌に出てきた男の子や、2003年の私たちの家族のように、クリスマス・シーズンに辛い状況下にいる大勢の人々のために祈ります。そして、そのような人々に出会えるよう導かれ、自分が彼らにとって慰めとなれるよう、イエスに求めるのです。すると主は、しばしばそのようにしてくださいます。

今では、まだ練習不足だと感じている内に歌のショーが間近に迫っても、神経質になったりはしません。また、誰かがうっかり大切な詳細を見落としても、腹を立てなくなりました。ただ自分が生きていて、今年もクリスマス・シーズンを楽しむことができる、という事実を感謝しようとしているからです。

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