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これは、不器用で内気なウォーリーという子どもの話です。
クリスマス劇の配役を決める時期となり、教師はウォーリーに何の役をさせればいいのか悩みましたが、結局、宿屋の主人にしました。
大切な役ではあるけれど、ただ首を横に振って、「すまないが、部屋はない」とだけ言えばいいからです。
この大切な役柄のことを聞いたウォーリーは、満面の笑みを浮かべ、演じるのが待ちきれない様子でした。
まもなくその日が訪れ、劇は順調に進んでいきます。
マリアとヨセフがベツレヘムまで旅をし、宿屋の戸口にやって来ました。ヨセフが扉をたたくと、中から主人のウォーリーが出てきます。
「お願いです、部屋はありませんか。」
ヨセフがそうたずねると、ウォーリーは首を横に振って答えました。
「すまないが、部屋はない。」
さて、台本では、ヨセフとマリアがここで宿屋を去ることになっています。ところが、ヨセフを演じていた子どもは勝手にアドリブを入れてきました。
「でも、妻には今にも赤ん坊が生まれそうで、泊まる場所が要るんです。部屋をお願いできませんか。」
ウォーリーは真っ青です。こんなのは予定にありません。どうしていいか分からず、しばらく沈黙してから、さきほどの台詞を繰り返しました。
「すまないが、部屋はない。」
それでもヨセフは続けます。
「でも、私たちは遠くから旅をしてきて、他に行くところがないんです。妻はひどく疲れています。なんとか部屋を都合してもらえませんか。」
ウォーリーは顔を伏せ、悲しそうに首を横に振って、言いました。
「すまないが、部屋はない。」
ついに、ヨセフとマリアは途方に暮れた様子で、その場を立ち去ろうとしました。
すると、役になりきっていたウォーリーは、自分が恥ずかしくなり、悲しく感じました。涙が頬を伝います。そして、大声でこう言ったのです。
「待って。僕の部屋に泊まればいいよ。僕は外で寝るから。」
それは台本通りではないものの、ウォーリーはその時、クリスマスの意味を完璧に捉えていました。クリスマスは神の愛と犠牲の贈り物なのです。